冷蔵庫の下

shousetu オリジナル小説

「うわっ、きたなっ。」

私は台所で一人声を漏らす。

ここに住んでもう5年は経つだろうか。引っ越し準備の為、冷蔵庫を押してずらすとそこには大量のゴミが落ちていた。

毎日お掃除ロボット君が床を綺麗にしてくれるし、自称綺麗好きな私の掃除はぬかりなかったはずだった。

ゴミの塊りを見てため息をつく私。

彼がこの家を出てから1か月になる。

大学4年生の時から結婚を見据えて同棲していた私たちだが、遂に破局してしまった

別に彼氏の浮気ではない。

彼はほぼ毎日、私に「好きだよ。」と声をかけてくれるし、くっついている時間も多かった。

むしろ周りからは馬鹿ップルと思われて良いくらいだったろう。

別れは私からだった。

大学生の時は、お互いにやりたい事、将来の事を話しあえて、それを共有して楽しかったし愛されてるのを感じた。

でも、お互い働き出してからは徐々に仕事の愚痴が多くなっていった。

職場は違うので二人で仕事の話をしても助け合うという事はできずに慰めあうだけだった。

私は彼の話をよく聞いてたつもりだ。

彼の職場の同僚、先輩の名前、いつ何処に行っていたのか。

それを踏まえた上で仲良くお話して二人の関係は順調だと言い聞かせていた。

でも、徐々に彼氏の口からは、「あれ?そうだったっけ?」「忘れてた。」などの言葉を聞く事が増えていく。

勿論、私が仕事の愚痴をプライベートに持ち込みすぎていたし、彼も大変だから私の職場の事まで全て把握できないのはわかってる。

わかってるけど、覚えていて欲しかった。私の全てを。

「私の好き」を覚えている彼と「私の嫌い」を覚えていない彼。

そのバランスが取れなくなった時に私は彼を振った。

「私の話してる事、覚えてくれてないよね。」

「私との将来の事、考えてくれてる気がしないの。」

見慣れた彼の顔だったけど、その日は初めてみる表情だった。

「ごめん。俺、記憶力悪くて、そんな風に思ってたなんて…。」

「俺、これからしっかり覚えるから、そんな事言わないでくれ。」

そう彼は言ってくれたが、

「就職してからね、どんどん私に興味がなくなっているように感じたの。」

「ごめんね、私も早く言えば良かったんだけど、別れたくなくて、好きだったからこんな事言いたくなくて。」

私は泣きながら彼に話した。

「大丈夫、もう大丈夫だから。俺しっかりするから。」

彼がそう言いながら私を抱き寄せようとしたが、私は後退り拒んだ。

それを見て、彼はやり直せないのを悟ったのだろう、見た事もない残念そうな表情をして別れ話を了承してくれた。

彼は、「俺が出て行くからこの部屋は使っていいよ」と言い自分の荷物をまとめて出て行ってくれた。

しかし、私自身もこの部屋にこのまま住んでいると彼の事を思い出しそうで、引っ越す事に決めたのだ。

荷物をダンボールに詰め込みながら片付けて、掃除がてら冷蔵庫をずらしてみた時、「うわっ、きたなっ。」と声を漏らしたが、ゴミを見て思う。

ほとんどが髪の毛だ。きっと彼のも混ざっているんだろうな。

同棲しはじめて絡み合った二人の思い出がこんな所に見つかったよ。

冷蔵庫下のゴミを見て、思い出と例えるなんて友達に話したら笑われるだろう。

けれど、ここには二人の思い出と歴史が確かにあった。

声を出しても答えてくれる人はもういない。私から追い出したのだ。

次の彼氏ができたら定期的に冷蔵庫の下を掃除しよう。

そして、私の重たい気持ちも定期的に相手に伝えよう。

そう思いながら私は冷蔵庫の下を掃除するのだった。


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