Ash Note

オリジナル小説

犬が嫌いだ。

僕は、今日も彼女の事を見ていた。

毎日、学校でだけ出会えるその子はクラスで一番可愛いというわけではないが、笑っている顔が僕には眩しく見えて恋をしていた。

友達たちとくだらない話や漫画の貸し借りをしながら過ごす高校生活。

僕ももう17歳だ。正直言って彼女が欲しい年ごろだ。

好きな子に声をかける事もできずに高校生活を終えるのも嫌だ、といつも通りの事を考えていたらいつの間にか下校時間になっていた。

ふと最後に彼女を見ようと席の方を見ると彼女も僕の方を見ていた。

ドキリとして見つめたまま固まる僕。

すると、彼女は立ち上がって近寄ると声をかけてくれた。

「ねぇ、この腕どうしたの?大丈夫?」

そう指差して言うのは僕のこの左腕に巻いた包帯の事だろう。

「ぇ、大丈夫だよ。ちょっと左腕の悪魔を封印してるだけだから。」

何とダサい誤魔化し方だろうか。自分で言っておきながらその瞬間に顔が紅く染まっていくのが自分でわかる程に熱くなる。

「ふっ、何いってるのー?それ、笑わそうとしてる?」

彼女は笑顔を見せると、女友達の方に振り返って仲良く教室から出て行った。

その後、僕は周りの男友達から、「左腕の悪魔」と囃し立てられるがそれでも良かった。

今日一日、浮かない表情をしていた彼女が笑ってくれたのだから。

そして、同時に申し訳なさもあった。

今日、僕は彼女の物を盗もうとしていたからだ。

こんな衝動に駆られるなんて、僕はどうしようもなく彼女の事が好きなようだ。

彼女の物を持ち帰り、抱きしめて、匂いを嗅いで頬ずりしたい欲望がここ最近、頭の中でずっと渦巻いていて、今日がその作戦決行日としていたのだ。

僕は友達からの一緒に帰ろうという誘いを先生に呼び出しうけているからと嘘をつき教室に残る。

普段そんなに喋らないクラスメイトが一人、また一人と教室から出ていく。

自分がこれからやる事への緊張感からなのか気づいた頃には教室に僕一人になっていた。

そして、僕は扉から少し顔を出すと廊下に誰もいないのを確認する。

夕暮れの差す教室で、彼女の机の横に立つと引出しの中から灰色のノートを一冊取り出し自分の鞄の中にしまった。

瞬間に周りを見回す。大丈夫だ、誰にも見られていない。

僕は安堵すると教室から出て帰宅する。

彼女がいつも触れている物、大切な物を僕が手に入れた。それを誰も見ていない自分の部屋で好きなように愛でる事ができる。こんな楽しみな事はない。

帰り道、学校の知人とすれ違わなかったのは良かった。きっと今の僕は気持ち悪いくらいににやけてい


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るだろう。

家に着くと真っ先に2階の自分の部屋に向かって鍵をかけたのを確認すると、鞄の中から彼女のノートを取り出す。

あまり見ない灰色のノートだから直ぐにこれだとわかった。

普段から彼女を見ていると教室でこのノートを大事そうにしながら好きな物を描いていた彼女を思い出す。

僕はわくわくしながら、早速ノートを開く。

犬、彼女の友達、花瓶、教室、犬、友達、犬、犬、友達、犬……

茶色でクルクルとした毛が印象的な犬だった。

僕は1ページ目からその犬を見るとその犬が描かれたページを探すようになっていた。

そして見つけてしまった。マロンと書かれた首輪をつけている犬のイラストを。

それは、昨日僕が自転車で轢いてしまった犬と同じだった。その犬もマロンという首輪を付けていたのだ。

この左腕の怪我もその時に転んで擦りむいたものだ。

彼女はまだ知らないはずだ。マロンがどうなったかを。

おそらく脱走したのだろう、路上に急に表れたマロンを僕は避ける事ができずに轢いてしまった。

そしてその後に焦った僕は草むらの中にマロンを投げ入れたのだ。

急に吐き気にも似た気持ち悪さが僕を襲う。

僕は彼女の大切にしていたノートだけじゃなくマロンも奪ったのだ。

少し放心状態になってしまったが、冷静に考えると彼女はまだマロンを探しているかもしれない。

そうだとしたらあの草むらを探されるのは不味い。

そう思うと僕は急いでリビングに降りて、軍手とビニール袋を手にして家を出る。

目的地はあの草むらだ、自転車を必死に漕いで向かう。

動揺からだろう、向かっている途中で僕はビニール袋と一緒に灰色のノートも手に持っている事に気付く。

そして、あとちょっとで昨日の草むらの所まで近づくと、

「マロンー、マロンー!!」

女性の声だ、いや本当は直ぐに気付いた。彼女の声だ。

声が聞こえた瞬間に急いで引き返せば良かったのかもしれない。

けれど、僕は彼女の声に引き寄せられるように自転車に乗りながら近づいてしまった。

僕に気付くと不思議そうに様子を伺う彼女。

灰色のノートが気になったのだろう。珍しい色だしそれを普段から愛用している彼女からしたら気になるのも当然だ。

次第に軍手、ビニール袋に目を向けてから、

「ぇ?」

と短く声を発した。

誤魔化さなければと焦る僕の手からは灰色のノートがバサリと落ちる。

何の偶然か、マロンが描かれたページが開くとその絵はまるで僕に唸り声をあげているようだった。

長い沈黙の後、

「ごめんなさい。」

僕がそう呟くと彼女の顔は夕焼けと共に紅く染まっていった。

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